アネクドート

 

それは現実的な場所なのか。それとも、虚構的な場所なのか。どちらでもない。一つの制度がユートピア的な仕方で扱われる。つまり、私はある空間を思い描き、それをゼミナールと呼ぶ。問題の集会が、パリで、すなわち、今、ここで、開かれるというのは事実である。しかし、これらの副詞は幻想(ファンタスム)の副詞でもある。したがって、何ら現実性の保証もないし、逸話(アネクドート)の無償性もない。

 

ロラン・バルト,沢崎浩平訳「ゼミナールに」.

 

小説の《描写》は必要である。そして、だからこそ、報われない。小説の描写は奉仕であり、より正確にいえば、隷従である。逸話(アネクドート)は場所や人物に関するいくつかの情報を語るように作者に強いる。

 

ロラン・バルト,沢崎浩平訳「F・B」.